未開人の研究日誌

東京大学で教育の研究をしています。2023年4月現在M1です。

共通テストについてまとめる

先日初めての共通テストが終了しました。共通テストの実施に当たっては構想段階から様々な批判・変更があり、なんとか実施に漕ぎ着けました。(厳密には第2日程が残っていますが)その経緯をまとめてみます。

そもそものきっかけは2013年の<a href="https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai4_1.pdf" target="_blank" title="教育再生実行会議第四次提言">教育再生実行会議第四次提言</a>。ここでは、
・達成度テストの導入
・多面的・総合的に評価・判定する大学入学者選抜への転換
・高等学校教育と大学教育の連携強化
が掲げられました。達成度テストは基礎レベルと発展レベルが用意されるとのことでした。

2014年12月の<a href="https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/01/14/1354191.pdf" target="_blank" title="中央教育審議会答申">中央教育審議会答申</a>では、
「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が行われるという方向になりました。

一部抜粋。
国は、新テストについて早急に専門家会議を立ち上げ、対象となる教科・科目、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における「教科・科目型」、「合教科・科目型」、「総合型」等の具体的な枠組み、問題の蓄積方法、作問の方法、記述式問題の導入方法、CBT方式の導入方法、成績表示の具体的な在り方などについて検討を行い、答申後一年を目途に具体的な内容について結論を得ること。
「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における思考力・判断力・表現力を問う問題については、求められる力を、「教科型」において他教科の内容を掛け合わせつつ評価する問題と、「合教科・科目型」「総合型」として教科・科目の枠を越えて評価する問題の両方について、国が主導して検討を行い、平成28年度中を目途に作問イメージを公表し、 平成32年度から実施すること。

2016年3月の<a href="https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/06/02/1369232_01_2.pdf" target="_blank" title="高大接続システム改革会議「最終報告」">高大接続システム改革会議「最終報告」</a>では、
マークシート式問題の改善
・記述式問題の導入
・英語の多技能を評価する問題の導入
これについては、「その具体的な在り方について、民間の資格・検定試験の知 見の積極的な活用の在り方なども含め検討する必要がある。」との文言がありました。
・CBTの導入
これについては、「このため、平成36年度から始まると想定される次期学習指導要領の下でのテストからCBTを実施することとし、現行学習指導要領の下での平成32~35年度間については、CBTの試行に取り組む。」との文言がありました。
・実施回数の在り方…年複数回実施
これにより「教科の知識に偏重した1点刻みの評価の改革という点につ いては大きく改善されること」が目標とされました。
2017年5月に文部科学省より<a href="https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/05/1385793.htm" target="_blank" title="高大接続改革の進捗状況について">高大接続改革の進捗状況について</a>が公表されました。
それを受けて<a href="https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka/model.html" target="_blank" title="モデル問題が公開">モデル問題が公開</a>されました。この頃は様々なタイプの記述問題が想定されていたようです。

2017年7月に<a href="https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/07/1388131.htm" target="_blank" title="高大接続改革の実施方針等の策定について">高大接続改革の実施方針等の策定について</a>が示され、「大学入学共通テスト」の名前が決定しました。ここで、「英語民間試験」「記述式の導入」「採点の委託」の方針が示されました。一方で基礎的な学力を示すテストは「高校生のための学びの基礎診断」という形で導入されることになりました。こちらについてはこの記事では深追いしません。

さて、この時点で「CBTの導入」「年複数回実施」「科目横断」は見送られています。

これを元に、2017年11月に最初の<a href="https://www.dnc.ac.jp/sp/kyotsu/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka/pre-test_h29.html" target="_blank" title="試行調査が行われました。">試行調査が行われました。</a>
ここで、「実用的な文章」などの方向性が示されました。ここで一般にも認知されました。
<a href="https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24220300U7A201C1000000" target="_blank" title="当時の新聞記事">当時の新聞記事</a>を載せておきます。
2018年2月の英語の施行調査では、リスニングに1回読みが登場しました。

2018年3月に、<a href="http://www.dnc.ac.jp/news/20180326-02.html" target="_blank" title="「大学入試英語成績提供システム」の参加要件確認結果">「大学入試英語成績提供システム」の参加要件確認結果</a>が出ました。
ここで、「受験会場の問題」「検定料」「難易度の公平性」が課題として浮かびます。実際に9月、<a href="https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_admission_method_03.html" target="_blank" title="東京大学">東京大学</a>が成績表の提出を必須としない方向を打ち出し、その後の対応は大学ごとに様々でした。

2018年11月、<a href="https://www.dnc.ac.jp/sp/kyotsu/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka/pre-test_h30.html" target="_blank" title="第2回の施行調査">第2回の施行調査</a>が行われました。
これについて、<a href="https://www.kawai-juku.ac.jp/highschool/admission-test/2018/" target="_blank" title="河合塾">河合塾</a>から以下の分析がなされています。

○複数科目での難度の改善。(第2回試行調査は平均得点率(平均正答率)5割程度として実施。2018年12月に大学入試センターが公表した第2回試行調査の「マーク式問題に関する実施状況(速報))では全19科目等のうち14科目等が平均得点率(正答率)5割程度以上となっており、多くの科目で改善が見られた。ただし、数学や理科の一部科目で難度の調整が必要と思われる科目もある。)
○全体での「問題の量の多さ」が指摘された科目での問題の文章量の減少(数学I・数学A、国語、生物、世界史Bなど)。
○正答率が低い記述式問題に対する改善。
 国語:特に文字数の多い設問(問3)の「正答の条件」が整理された(個々の条件の中には、1つの条件のみ設定されるようになった)。
 数学:「単一の数式」2題と「数式とごく短い文」1題の計3題となり、よりシンプルな記述内容となった。
○英語では筆記(リーディング)とリスニングの配点が均等に、どちらも100点となった。
など

これについては2019年4月に<a href="https://www.dnc.ac.jp/news/20190404-03.html" target="_blank" title="報告書">報告書</a>が出ています。ここでも、「記述採点の民間委託」が打ち出された一方、段階別評価に合わせて素点表じも行うことが決められました。また、「当てはまる選択肢を全て選択する問題」は出題されないことになりました。

6月、<a href="https://www.dnc.ac.jp/news/20190607-03.html" target="_blank" title="令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針について">令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針について</a>が発表されました。

2019年7月、その採点バイトに大学生が採用される見込みであることが<a href="https://president.jp/articles/-/29243?page=1" target="_blank" title="報道">報道</a>されました。
同月には、「大学入試英語成績提供システム」からTOEICが<a href="https://www.iibc-global.org/iibc/press/2019/p119.html" target="_blank" title="取り下げました。">取り下げました。</a>

8月、柴山文科相(当時)が「<a href="https://twitter.com/shiba_masa/status/1162363885317320704" target="_blank" title="サイレントマジョリティは賛成です。">サイレントマジョリティは賛成です。</a>」というツイート。
埼玉県知事選挙の応援演説中の抗議に対して、<a href="https://www.asahi.com/articles/ASM8W2TQWM8WUTIL001.html" target="_blank" title="「大声出す権利保障されない」とコメント。">「大声出す権利保障されない」とコメント。</a>
こうした批判から9月に行われた内閣改造で、<a href="https://www.kyobun.co.jp/news/20190910_04/" target="_blank" title="柴山氏は大臣を退任し、萩生田氏が任命されました">柴山氏は大臣を退任し、萩生田氏が任命されました</a>。
10月、萩生田大臣が<a href="https://www.j-cast.com/2019/10/25371052.html?p=all" target="_blank" title="「身の丈」発言を行いました。">「身の丈」発言を行いました。</a>

以下、引用。
「それ言ったら、『あいつ予備校通っていてズルいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」
この発言も影響し、英語民間試験の導入は見送られることになりました。<a href="https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51671970R01C19A1MM0000" target="_blank" title="ニュース">ニュース</a>
これに関連して、栄東高校の田中淳子校長の「はらわたが煮え繰り返るくらい悲しい」という発言も話題になりました。
さらに12月には、記述式問題の導入も見送られました。 <a href="https://univ-journal.jp/29594/" target="_blank" title="ニュース">ニュース</a>
これに伴い2020年1月、出題方針が<a href="https://www.dnc.ac.jp/news/20200129-01.html" target="_blank" title="見直されました。">見直されました。</a>

2月には、問題作成委員らが例題集を出版するという事件が<a href="https://www.sankei.com/life/news/200216/lif2002160039-n1.html" target="_blank" title="産経新聞">産経新聞</a>によって報じられ、委員が複数辞任しました。
<a href="https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038253.pdf&n=令和2年2月17日付け産経新聞の報道について.pdf" target="_blank" title="大学入試センターの回答">大学入試センターの回答</a>

6月に<a href="https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038409.pdf&n=令和+3+年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施要項.pdf" target="_blank" title="選抜要項">選抜要項</a>が公開されました。おこで、新型コロナウイルスの影響により試験を2回行うことが定められました。
次いで<a href="https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038409.pdf&n=令和+3+年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施要項.pdf" target="_blank" title="試験要項が公開">試験要項が公開</a>されました。
7月、<a href="https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/jukenannai_gazo.html" target="_blank" title="受験案内">受験案内</a>が公開されました。ここでリスニング第3問の読み上げ回数が突然1回になりました。

また、<a href="https://www.ynu.ac.jp/exam/faculty/release/pdf/senbatsu_henkou.pdf" target="_blank" title="横浜国立大学">横浜国立大学</a>が2次試験を行わない意向を示しました。

10月、出願が終了して<a href="https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00040117.pdf&n=別添①令和3年度大学入学共通テストの志願者数等について.pdf" target="_blank" title="受験人数が公表">受験人数が公表</a>されました。結果、第1日程では534,527人、第2日程では718人が受験することになりました。※確定人数

11月、<a href="https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00040099.pdf&n=令和3年度_受験上の注意.pdf" target="_blank" title="受験上の注意">受験上の注意</a>が公表され、マスクの着用が義務付けられることとなりました。

1月8日、追試験の受験に関して<a href="https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/coronavirus_message.html" target="_blank" title="医師の診断書がなくても認められる場合がある">医師の診断書がなくても認められる場合がある</a>ということを公開しました。

1月16、17日に試験が行われて、22日に平均点の公表、そして得点調整がされることになりました。

また21日には、<a href="https://www.utsunomiya-u.ac.jp/docs/ippansenbatsu_chushi.pdf" target="_blank" title="宇都宮大学">宇都宮大学</a>も2次試験の中止を決定しました。

これが時系列です。では、当初の目標からどのように変わっていったのでしょうか。
・基礎力テスト→学びの基礎診断という形でやっているものの、大学入試との関連性はなし
・eポートフォリオの活用→JAPAN e-Portfolioは運用停止、今後の方向性は不明
・教科の融合→学習指導要領の改定後?
・CBTの導入→現在検討段階と思われる。参考ページ:<a href="https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/en_committee.html" target="_blank" title="大学入学共通テスト企画委員会">大学入学共通テスト企画委員会</a>
・年複数回の実施→CBTの導入が前提? 現在では殆ど議論がされていないと思われる。
・科目「情報」の導入→学習指導要領の改定後?
・英語民間試験→ひとまず延期、2025年度からの導入を目指す
・記述式→導入時期は不明
・実用的な文章→結局導入されず。
※報道では、<a href="https://news.yahoo.co.jp/articles/a7b7bd8ae915fe915deea3b130b0379159d32059" target="_blank" title="こんなもの">こんなもの</a>がある。引用する。

特に国語は17、18年の2回の試行調査(プレテスト)で題材になった実用的な文章を使った設問が増えると予想していた受験生もいると思う。

流石にこのくらいの情報は受験生も入手しましょう。それとも、意図的に隠すつもりだったのですか?確かに、「実用的な問題は1問も出ない」とは言ってませんが。
更に、99.9%の受験生が第1日程で受験(3密対策ではなかったのですか?)や2次試験中止による後出しの一発勝負、挙げ句の果てに得点調整(平均点50点を目指すのでは?)までありました。得点調整のやり方が難易度調整の上で正しいという根拠はない以上、出題ミスと同じくらいやってはいけないことでしょう。

そして共通テストでクラスターも発生しているのではないですか?

以上、まとめました。