未開人の研究日誌

東京大学で教育の研究をしています。2023年4月現在M1です。

9浪はまいの東大院受験についての私見

今秋、9浪はまいという方が東大の教育学研究科を受験されたようで。

結果は2次試験で不合格でしたが、その受験をめぐっては賛否が入り混じっている状況となっています。

あくまでも私見にすぎませんが、意見を述べたいと思います。

 

個人的には、大学院受験については肯定的、というよりはむしろ大学院で学ぶべきだと思っています。

 

はまいさんの受験に対する反応は以下のようなものです。

・学歴目当ての受験である

これが最も多い意見です。これについては、「東大以外を受験しなかったことがそのような批判に繋がった」という意見が多いです。

なぜ東大以外を受験しなかったかについては本人の口から直接語られた訳ではありませんが、個人的には憶測で叩きたくはないです。第一に院試は大学によって時期も違えば問題も大きく異なります。そもそもこれから冬受験の大学を受験する可能性も否定できませんし(しないと思われますが)、一本に絞った方が合格率が上がる可能性は十分に考えられます。また私大だとどうしても学費が高くなるので敬遠した可能性は十分に考えられます。

まあ恐らく院試予備校の方とも相談して決めたと思うので、学歴目当てであればその時点で止められるのではないでしょうか。個人的には彼は受験校選定についてはそこまで深く考えていなかったと思うので、思わぬ炎上と言ったところではないでしょうか。

 

・受験をエンタメ化している

「受験のエンタメ化」がどういうことかあまりよく分かりませんが、あの動画1本でエンタメ化というのには無理があるのではないか、というのが私見です。(本人もエンタメであると認めているようですが、どうなのでしょう)UkatteTVのようなことを院試でやったら批判されるべきであると考えますが、報告動画を除いては、合格発表後に動画を1本出しただけです。個人的にはこの程度なら許容しますし、合格発表で金を稼ぐことへの批判であればチャンネル主のトマホークさんに対して批判を行うべきです。

 

・研究室訪問をしていない

本人がしていないと言ったわけでもあるまいし、憶測だけで語っているように思われます。院試の予備校に通っているわけですし、予備校の方で確認が入るに決まっています。また、彼が受験されたコースの教授がポストしており、研究室訪問の有無は合否に影響しないだろう、とのことです。

 

・真に研究をしたいというわけではない

東大の文系大学院は研究者養成の場としての性格が強いので、研究者を志す強い覚悟が必要である、という意見があるようです。キャリアの問題もありますし、自分が当事者になったら結構気にするとは思いますが、このような態度がアカデミックの知見を閉じ込めてしまうことに繋がってしまうのではないかと懸念しています。修士課程であれば研究者を目指す人以外にも開かれているべきであり、むしろアカデミックの知見を積極的に社会に発信していただきたいと考えています。

 

・教育社会学は受験そのものを批判的に捉える学問であり、彼の活動とは相性が悪い

こういったところが口頭試問で問われ、不合格になったのではないかと推測しています。外野が批判しなくても教授が的確に判断した結果だと思います。(なので、不合格になって安心しているなどのコメントについては納得できる部分はあります)

とはいえ、僕自身1年前を振り返ると研究計画はひどいものであったし、そこまで完全性が求められるのは結構きついと感じています。(比教社だったら落とされていたかも…)大学院での学びを通して自分自身もかなり成長している実感はあるので、はまいさんにも大学院での学びを通じて、学歴社会そのものがはらむ問題性についてもっと学びを深めていただきたいと思います。

僕個人としては、はまいさんが大学院で学んだことを今後のインフルエンサーなどの活動に繋げてほしいと考えていますし、修士課程はそういった方にも広く開かれるべきだと思います。自省も大いに含んでいますが、教育の実践をしている人と研究者の間に優劣はなく、研究を通して社会を変えるという意味ではどちらも必要なことであると考えています。(それは東大以外でやるべきだ、という批判があったらどうしようもないのですが、それってどうなんでしょうね)

大学院での学びを経ても彼の発信内容が変わらなかった(あるいは、さらに学歴主義を強化する言説を主張する)場合、その時初めて批判すればいいのではないでしょうか。

いわゆる「学歴界隈」(をはじめとする世間)と教育学の間には大きな溝があるのは自分自身かなり実感しているところであり、個人的にもかなり悩んでいる部分です。はまいさんも大学院での学びを通じて大いに葛藤していただきたいと思っています。

 

・まとめ

個人的にははまいさんには大いに期待しているので、教育社会学を学んでほしいとは思っています。社会科学においては東大が研究機関としても群を抜いているので第一志望になるのは当然のことだと思いますが、広い視野を持って受験校を選択してほしいと思っています。(東大に来てくれたら嬉しいとは思いますが)一方で他の受験生との競争の中で大学院に入るからには、それなりの社会的責任を負うべきであるとも思います。

過去の境遇や現在の活動で有利不利になったりすることはなく、あくまで研究内容に基づいて粛々と判断されるだけだと思うので、足りない点について色々と考えることが必要なことでしょう。研究への姿勢を含め研究能力が足りなければ落とされるだけなので、挑戦すること自体の批判はすべきでないと思います。