はじめに
彼が新聞で取り上げられ、一躍有名になったのは2019年5月5日の新聞がきっかけでした。ということで、5月5日に投稿しています。
話の初めに、まず彼に対する第一印象を述べておきましょう。正直なことを言うと、彼が小学5年生にして「ロボットになるな」と言う主張をできるのは凄い子だなあと思いました。確かに今当時の動画を見返してみると言わされている感じもしますが、小学5年生の頃人間として生きるよりロボットとして動いていた方がいいのでは?と本気で考えていた僕にとっては衝撃的でした。
3年経って現在の動画を見てみると、喋りはずいぶん慣れた印象を受けます。少々態度が悪いのは目につきますが。
一貫する論点としては、積極的に不登校を選択することは認められるのか、という点でしょう。
不登校についての情報整理
まずは、不登校についての情報の整理をしましょう。定義はこちらで示されています。
「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあること(ただし、病気や経済的な理由によるものを除く)」により、年間30日以上欠席している児童生徒のことを指します。この定義自体が、学校基本調査において現状を把握する目的で使用されているということは重要です。すなわち、「不登校」という言葉の定義はただ欠席しているという事実を述べているに過ぎないということです。
あと、保護者の教育への考え方や無理解・無関心など家庭の事情は「その他」に分類されるようです。そのため、言葉の定義から考えると彼は「不登校」ではなく、単なる長期欠席生徒の可能性が出てきています。
※ここで、「病気」の定義も少し難しいとは考えられます。というのも、起立性調節障害は不登校の主要な要因ですが、文科省の定義でどちらに扱われているかはわかりません。まあここでの議論では定義にあまりこだわる必要はないので無視しましょう。
不登校・長期欠席についての最新統計はこちらです。
令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
一般的には、不登校は消極的に選択せざるを得ないというイメージは根付いています。主要な不登校の原因などについてはいくらでも情報があるので、ここでは割愛します。(とりあえず
不登校の8つの原因とその対応方法 - 不登校の原因・対策解説ノート
を貼っておきます)
オルタナティブ教育について
ここからが本題です。不登校には消極的なもの以外にも、オルタナティブ教育への期待から積極的に選ぶケースも多いです。今回テーマとして取り上げているゆたぼんさんもこちらのパターンです。
とりあえずWikipediaを貼っておきましょう。
NHKニュースも貼っておきます。
新たな選択肢の学校“オルタナティブスクール”とは | NHK | WEB特集 | 教育
オルタナティブ教育は、従来と異なる学び方のことで、オルタナティブスクールで学ぶ場合とホームスクーリングで学ぶ場合があります。
ここでフリースクールとオルタナティブスクールには明確な区別はなく、一応意味合いとしては、フリースクールが消極的不登校の児童生徒が通う場所であるのに対して、オルタナティブスクールはそこに通うことを目的とした積極的不登校の児童生徒が通う場所として使われていることが多いでしょう。
また、フリースクールはその中でも非認可校のことを指しますが、オルタナティブスクールの中には一条校となっているものもあります。(ちなみに、消極的不登校の児童生徒が通う一条校として、不登校特例校が設置されています。これは公立私立ともにあります)
※一条校…学校教育法第1条で定められた学校のこと。
表にまとめると、こんな感じです。
認可 | |||
あり | なし | ||
不登校 | 積極的 | オルタナティブスクール(一条校) | オルタナティブスクール |
消極的 | 不登校特例校 | フリースクール |
一条校になっているオルタナティブスクールはこんな感じです。このほかにも、インターナショナルスクールなどもオルタナティブスクールということができるでしょう。
- シュタイナー教育(北海道と神奈川県に一条校)
- きのくに子どもの村学園(一条校を5県で運営)
- 素和美小学校(山梨県、フィンランド式教育)
- グリーンヒルズ小中学校(長野県)
- イエナプラン教育(長野県に大日向小中学校)
- とさ自由学校(高知県)
- ドルトンプラン教育(河合塾が中高を設立)
また、不登校特例校については文部科学省のHPに一覧が載っています。
星瑳学園や東京シューレが代表例として知られています。また、どちらかの区分が難しい学校もあります。
これらの学校は、文部科学省が認可している学校であるため、在籍児童生徒は当該校に籍を置くことになります。
一方で、一条校になっていないオルタナティブスクール・フリースクールも数多くあります。
- モンテッソーリ教育
- フレネ教育
N中等部などもフリースクールですが、積極的に選択している生徒もいることから、厳密な区分は難しいでしょう。
そして、ゆたぼんさんが通っているサドベリースクールも、この中に入ります。
昨年からオンラインフリースクールもすでにいくつか出てきており、選択肢は広がっています。彼が新たに通い始めた「みんなの学園」も、今年1月に新しくできた、新鋭の学習空間です。関連:
これらの学校は一条校ではないため、原則他の学校に籍を置くことになります。
教育機会確保法について
さてここで、無認可校の扱いについて押さえておきましょう。ここで出てくるのが、2017年に施行された教育機会確保法です。教育機会確保法
この法律は、主に不登校児童生徒に関する項と、夜間中学に関する項から成り立っています。法律の主なポイントとしては
法律は理念的な項が多く、実際に現場に影響を及ぼすのはそれに付随する施行規則や通知だったりします。この時も、文科省から「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」が出され、その中で出欠の取り扱いについて指導がなされました。
これによると、「学校への復帰を前提としている場合」に、フリースクールなどへの登校が登校扱いとして認められる場合があるということになりました。
またこれは、2019年には再度通知が出され、「学校への復帰を前提とする」文言は削除されました。
「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日:文部科学省
実はこの時に、不登校児童生徒へのオンライン学習対応が可能となっています。
では、現在の実際の運用はどうかというと、現場の間でもかなり差が生じています。
広がるフリースクールの「出席扱い」 学校との連携進むも割れる対応 | 毎日新聞
不登校の子が民間施設で活動した場合の「学校出席扱い」指針 学外の学びに寄り添う一歩に 上田市|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト
不登校最多、出欠判断の基準はあいまい 学びの場多様化、実態反映せず:中日新聞Web
オルタナティブスクールに通う児童生徒の出欠をどうするかも、現場で判断は分かれています。
民間スクール通学で「就学義務の不履行」 行政指摘に保護者困惑:中日新聞Web
学校外での学び、割れる出席扱い 不登校の子支援明記 法施行3年|【西日本新聞me】
冒頭の調査結果では、これにより「長期欠席」の枠から外れた児童生徒が約4万人いるとされています。実態として籍を置いている学校に通っていない児童生徒は、これよりさらに多いのです。
法律上はかなりグレーゾーンなので、論争が起こること自体は仕方がないと言えるでしょう。特に教育機会確保法の審議の際には、オルタナティブスクールを含む無認可校を一条校と同等の扱いにしようという議論がありました。
不登校にまつわる法解釈について
ここからは、そもそも憲法や法律にある義務はどう解釈されるか、という点について考えていきます。
ゆたぼんさんの主張にもあるように、日本国憲法第26条で定められているのは、保護者に対する義務だけです。それも、保護者に課されている義務は「普通教育を受けさせる」義務です。具体的に義務の内容が書かれているのは学校教育法の第17条で、ここで保護者が子供を小中学校等に修学させる義務が書かれています。
就学義務を果たしていれば登校しなくても問題はないというのはいかにも抜け道的な対応な気もしますので、論争になりやすいテーマであることは確かでしょう。
ここまでの話で押さえておきたい点は、
・オルタナティブ教育は教育機会確保法で法的に認められてはいるが、グレーな部分も多い
・オルタナティブ教育は大衆の支持を得てはいないが、それを選択する人は一定数存在しており、ニーズは拡大している
すなわち、ゆたぼんさんというのは一例にすぎず、過度に特殊な事例として捉えてはいけないということです。(もちろん、活動する上でのさまざまなトラブルに関してはまた別の問題ですが)そして、もっと公教育のあり方やオルタナティブ教育のあり方について議論が進むきっかけになればいいのですが、現状では双方が罵り合うだけの、非常にレベルが低い争いになってしまっているのが残念です。
終わりに
最後に自分の立ち位置を表明しておくと、不登校自体には問題はないものの、過度にアンチを煽る姿勢には問題はある。ただしそれはアンチの質が低すぎるせいで、ゆたぼん側に味方せざるを得ない状況です。
追伸:4月5日にコメントくださった方
遅くなりましたが返信しましたので、確認いただけると助かります。